19世紀末のヨーロッパ各都市を華やかに彩ったアール・ヌーヴォー。フランスではパリと並んで、フランス北東部、ロレーヌ地方の中心地ナンシーが、今もなお多くの人を魅了し続けるこの芸術様式の中心的役割を果たしました。15世紀以来のガラス工芸の伝統があったナンシーの芸術家たちは、絵画・彫刻に代表された芸術との距離を縮めながら、ガラス工芸を中心とした装飾芸術の価値を高めることに情熱を注ぎました。その中心人物がエミール・ガレ、彼に賛同した芸術家たちは、その活動の地にちなんで自らをナンシー派と称しました。ナンシー派美術館は、彼らナンシー派の芸術家、職人、産業界、そしてナンシー市が協力し合い、40年の歳月をかけて作り上げた美術館で、ミュゼ・ド・フランスの中で唯一つの、アール・ヌーヴォーのために捧げられた美術館です。 ナンシー派のパトロンであったコルバン氏の私邸を改装したこの美術館では、ナンシー派の貴重な作品が日常の室内空間の中に配され、当時の雰囲気が見事に再現されています。家具、工芸品、ガラス製品、陶磁器や織物など、ナンシー派作品の華麗な技術と幅広い多様性を見せる作品からは、生活そのものを芸術化しようとした、ナンシー派の熱き情熱が感じられます。コレクションの大部分を占めるガレの作品は、その変遷と研究の軌跡が同時に鑑賞でき、他に類を見ない内容となっています。ルイ・マジョレル、ウジェーヌ・バランなど、ナンシー派に名を連ねた他の作家の作品も、邸内の空間と見事なハーモニーを奏でています。 そのハーモニーは建物の外の庭園にも続きます。20世紀初めの雰囲気で再現された庭に植えられているのは、ナンシー派園芸の交雑によるライラック、ボタン、アネモネなど。また、ひときわ人目を引くユニークなパビリオンは水族館で、ジャック・グルベールのステンドグラスが装飾されています。水中で曲線を描く魚までもが美術館の一部であるという、この美術館の最大の魅力は、草花や小動物など、ナンシー派が愛し、好んで用いた繊細で有機的なモティーフ発想の原点である自然を、作品との調和の中で堪能できることかもしれません。